2012年1月11日水曜日

Chéri 1996

2012年を迎えまして、気持ちも新たにブログしていきたいと思います!
コメント、大歓迎です。
最近はバレエというか、マッシモ・ムッルのことしか書いてませんが、そのうち他のことも書きます。(^_^;)


さて今日は、マッシモにとって「思い出深い作品No.1」、ローラン・プティ振付、カルラ・フラッチとマッシモ・ムッル主演「シェリ」Chéri について。
ますは、マッシモへのインタビューではなく、作品自体のレビューのご紹介から。
海外版Dance Magazine (June 1996)に掲載の英文記事の訳です。


このバレエ作品、残念ながらDVDになっていないので、数少ないながらも探し出した断片的なイメージと画像とから得られるイメージしかなく、2009年映画化された「わたしの可愛い人―シェリ」を参考に観てみました。
この映画では最後にシェリは銃で自殺したことになっていますが、おそらく「シェリ」(1920)続編の「シェリの最期」(Fin de Chéri, 1926)でそういう結末だったのだと思います。「シェリ」自体では、シェリが他の女性と結婚しレアと一旦別れたものの、忘れることができずレアの家に戻ってくるが、レアは結局シェリを追い返すというところまでです。


前置きがやや長くなりますが、「シェリ」原作を書いた作家について、面白いのでご紹介したいと思います。

コレットはフランス人女性作家です。(Sidonie-Gabrielle Colette, 1873~1954)
これまたユニークな人生を送っており、20歳で結婚した15歳上の旦那は有名なバイセクシュアル、33歳の時に不実な夫と別れて女性作家のところに一時住んでいましたが、この女性(生涯友人だった)や、あの有名なジョセフィン・ベーカーとも(恋愛)関係を持っています。
コレットは、恋人の女性(Marquise de Belbeuf)のコネでパリのミュージック・ホールで仕事を始め、1907年には「エジプトの夢」(Rêve d'Egypt)を恋人と二人でムーランルージュで踊っています。しかし作品中のキスシーンが劇場内に暴動を起こし、警察沙汰になり上演は中止、二人はもう公には同棲できなくなったものの、二人の関係は5年間続いています。
その後39歳で再婚し、さらに3度目の結婚もしているという!
当時のフランスにはこういうドラマチックな人生を歩んだ芸術家が沢山いますが、はっきり言って・・・「シェリ」もいいけどあんたの人生のほうがよっぽどドラマでしょ!!とツッコミ入れたくなりました。
こんなにハチャメチャなのに・・・3度も結婚しながらレズビアンカルチャーを公にしていたのに、ベルギーやフランスの権威ある(ほとんど神々しい)文学アカデミーのプレジデントやシュバリエに任命されているという*
フランスの寛容さと芸術への理解の深さに脱帽です。
ともあれ、こうした作家のプロフィールを知ると、女主人公のレアが元高級娼婦、シェリの母親も然りという設定も、得意とするところだろうなと思いますよね。


コレット自身による「エジプトの夢」ポスター
 *ベルギー王立アカデミー会員 (1935), ゴンクール・アカデミーのプレジデント (1949) (また1945年に女性初のメンバーになっている),レジオン・ドヌールのシュヴァリエ (1920)、グランド・オフィサー (1953) を歴任。
(参考)http://en.wikipedia.org/wiki/Colette


【ダンス・マガジン 記事 1996年6月】

「シェリ」レビュー ミラノ・スカラ座 1996年2月14~26日
by シルヴィア・ポレッティ

1996年にカルラ・フラッチは人生における二つの重要な節目を迎えた。
60歳の誕生日とスカラ座との50周年である。このバレリーナへの贈り物として、スカラはローラン・プティを迎え、フランス人作家コレットの小説にインスパイアされた全一幕の作品「シェリ」を作らせた。

Carla Fracci
今のフラッチにレアはまさに適役だ。成熟した魅力的な高級娼婦のレアは若いシェリに惚れ込んでしまう。彼女はシェリに傷つけられるだろうことを承知の上で、最後の情熱を彼に傾ける。コレットが描く通り、彼はあまりに若くハンサムでスポイルされているため、エゴイストなのだった。驚くまでもないが、シェリはレアを捨て、若い金持ちの女と結婚する。実はレアこそが彼の生涯の恋人であることを悟らずに。戦争から戻り、退廃したシェリはレアの元へ帰って来るが、そこには寂しい老女の姿があるだけだった。

プティはフラッチの女性としての夕暮れ時の美しさと、マッシモ・ムッルの若々しい色気を対峙させている。この組み合わせにより、悲劇的なまでに全く異なる感情を抱いた2人のラブシーンを、ドラマチックで興味をそそるものに仕立てている。

ダンスはいつものプティらしく流れるようにエレガントかつ官能的で、ダンサー達の解釈により特に興味深く作り上げられていた。コレットが描いたような、シェリの大胆さを面白がり惹かれていく洗練された高級娼婦を演じるのでなく、フラッチはもっと母のようで優しい。そのせいで最後のシェリとの再会の劇的さは弱まる結果となっているが、フラッチが非常に巧みにレアの無言の絶望を表現しているため、彼女の脆くはかない存在が観客の方へと飛び離れ、彼女の悲劇へと巻き込むのである。


細部のタッチにより、プティはレアの浅はかな取り巻きに性格を持たせ、また当時の社交ダンスを描き出すことにより世紀末の時代背景を表現することに成功している。ルイザ・スピナテッリの舞台装飾は世紀末のパリを彷彿とさせ、ポーレンクによる音楽がふさわしいメランコリーな雰囲気をもたらしている。

若きプリンシパルダンサー、マッシモ・ムッルはアーティストとして急速に成長している。また特筆すべきはプログラムの幕開けで「シャブリエの6つのダンス」 Les Six Danses de Chabrier ("Six Dances by Chabrier")でソリストを務める20歳のロベルト・ボッレである。長身、ハンサムで大胆、テクニックに優れたボッレは、注目すべき才能だ。


【補足コメント】
実はバレエ作品としての「シェリ」は、プティが最初ではなく、ピーター・ダレル振付により1980エディンバーグフェスティバルでスコットランドバレエにより初演され(音楽:デビッド・アール)、1989年に香港バレエによりリバイズ版が上演された。他、ミュージカル化及び先述の2009年の映画以前にも1950年に映画化されている。


【訳者感想】
訳してみて思うのは何よりも、「舞台が観てみたかった!!」の一言です。
そこまでマッシモの心に刻まれる作品。
技術的・表現的には今の方がはるかに優れているのは間違いないですが、やはり若い時、そして初めて大物振付家の振付で名バレリーナ(フラッチは「スカラの至宝」とされていた)を相手に踊る、弱冠25歳。プリンシパルに抜擢されて2年後の話(エトワールになるのは2003年のこと)。
ものすごいプレッシャーだったことでしょう。
でも、監督のテラブストの信頼、プティの信頼、パートナーのフラッチからの信頼。これらを裏切らないようにきっとものすごーく頑張ったんだろうなぁ・・・などと想像するのみです。
今や40歳、「シェリ」役はちょっと厳しいかもね。その分素敵になっていますが。ふふふ。



【原文】

by Silvia Poletti

LA SCALA BALLET TEATRO ALLA SCALA, MILAN FEBRUARY 14-20, 1996
REVIEWED BY SILVIA POLETTI
In 1996 Carla Fracci celebrates two important milestones in her life: her sixtieth birthday and her golden jubilee with La Scala.
As a gift for the ballerina the theater invited Roland Petit to create Cheri, a one-act ballet inspired by the work by French novelist Colette.
The principal role of Lea is exactly right for Fracci today. Lea is a mature and fascinating woman of the demimonde who allows herself to be captivated by a young man, Cheri.
She lives out her last passion with him, though she knows that Cheri will hurt her. As Colette writes, he is too young, too handsome, too spoiled not to be an egoist. Sure enough, Cheri leaves her to marry a young heiress, not understanding that Lea is the true love of his life.
Returning from war, when he realizes his decadence and returns to Lea, he finds only an old woman lost in loneliness.
Petit counters Fracci's twilight beauty with Massimo Murru's fresh cockiness, a mix that makes the love scenes an intriguing dramatization of the very different feelings in the hearts of this tragically mismatched pair.
The dancing, as always with Petit, is flowing, elegant, and sensual made particularly interesting here by the dancers' interpretations. instead of the sophisticated courteson amused and attracted by Cheri's boldness, as described by Colette, Fracci is more motherly, more tender.
This makes Lea and Cheri's final meeting weaker dramatically, but Fracci is so effective at expressing Lea's mute despair that her tiny, frail figure towers over the audience, involving all in her drama.
Small touches enable Petit to characterize Lea's frivolous entourage and to show the years rolling by the turn of the century by depicting social dances of the day. Luisa Spinatelli's set and decor ideally evoke fin-de-siecle Paris, and music by Poulenc provides the right melancholic atmosphere.
A young premier danseur, Murru is quickly maturing artistically. Also worthy of remark is twenty-year-old Roberto Bolle, a soloist in Petit's light and mannered Les Six Danses de Chabrier ("Six Dances by Chabrier"), which opened the program. Tall, handsome, bold, and technically strong, Bolle is a talent to encourage.
COPYRIGHT 1996 Dance Magazine, Inc.
COPYRIGHT 2004 Gale Group

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