2012年1月9日月曜日

ひと息 ~これまでの記事を振り返って

あけましておめでとうございます。
今年もStellaのブログをよろしくお願いします。


さて昨年10月、マッシモ・ムッルに「一目惚れ」して以来、彼についてできるだけのことを知りたいと思い、あらゆるところに彼を探し求め、見つけた記事と写真を片っ端から日本語にして紹介してきました。

だいぶ記事もたまってきたので、ここで感想を述べたいと思います。




訳していると自分の主観は入れないようにしているので、ブログを書いていながら自分はほとんど語らない。
マッシモの言葉ひとつひとつ噛み締めながら、この言葉はどういった背景から生まれて来るのだろう?と想像し、調査し、何度も読み込みながら、非常に乏しいバレエ知識と理解力との闘いみたいなものでした。自分でも「よくやるよ」と時々思いますが、そこはやっぱり、好きな人の大切なバレエを語る言葉、私にとってもすごく大事。


そんなこんなして膨大な余暇の時間を費やしていると、訳しながら色々思うこと・感じることがたくさん自分の中に蓄積されていきます。


10月26日、シルヴィ・ギエムのHope Japanツアー Aプロで初めてマッシモと出会ったわけですが、この2ヶ月強、彼について初心者ながら探究していく中で私が見たマッシモ・ムッルは、「真摯にバレエに向き合う人」、そしてその静かな佇まいとは裏腹の「ダンスと音楽に対して燃え尽きない情熱を抱く人」、また「非常に知的で考察と解釈に深みのある人」です。
「オネーギン」「マノン」「さすらう若者の歌」等々、解釈の難しそうな作品が彼の代表作ですものね。

 


「マノン」
"Intervista esclusiva"(http://i-diari-di-stella.blogspot.com/2011/12/intervista-esclusiva-massimo-murru.htmlで紹介しましたが、あの素晴らしいデグリュ役の影には多年に渡り重ねてきたレッスンと舞台での経験だけでなく、初代デグリュであるアンソニー・ダウエルから直接指導を得られたという幸運もあったのですね。
私はマッシモもダウエルも生で観たのは一度しかありませんが、それがシルヴィ・ギエムツアーでの「マノン」(2011年10月)でした。
2011年1月にスカラ座でやはりシルヴィ・ギエムと組んで「マノン」全幕を演じ、観客に大きな感動を与え大成功を収めた(http://i-diari-di-stella.blogspot.com/2011/11/about-massimo-murru-i.html)でご紹介しています)わけですが、ここまで長年踊り続けて、やっと「自分のものにできた」(ダンスマガジン2012年1月号のインタビューより)とマッシモ。


スカラ座ウェブサイトのビデオでも、マッシモが一人、長く語っています(http://www.teatroallascala.org/en/season/opera-ballet/2010-2011/histoire-de-manon_cnt_15398.html)が、内容をかいつまむと、「マノンと長年付き合っていくうちに自分の性格の変化とともにデ・グリューの性格も常に変化してきた。ひとつひとつのパ、動作、視線が毎晩同じことはなく、自分と一緒に生きているバレエ作品」と語っています。文字通り、作品と自分の人生が重なっているわけですね。彼の言葉がすごく情緒豊かで素敵です!






そして、あらゆるインタビューに繰り返し出てくる3人の人物。

エリザベッタ・テラブスト
ローラン・プティ
カルラ・フラッチ
です。

"Cheri" rehearsal, Roland Petit, Carla Fracci and Massimo Murru


シルヴィ・ギエムについては、(マッシモファンとしては言いにくいですが・・・やはり客観的に見ても)彼女のおかげで世界の舞台に立つ機会が得られてると思いますし、組む回数も多く長い付き合いな割に、コメント少なし。
勝手な推測ですが、彼女についてはマッシモが何も言わなくても百万個くらい色んな人による様々なコメントが言い尽くされてますし、大スターなだけに、パートナーなだけに、コメントには慎重にならざるを得ないのかな。


そう言えば、意外ですが、フラッチ以外の他のパートナー達に関しても特にコメントしているのは見たことありません。(1度だけ、モンタナリだったかしら?に関してポジティブコメントを見たのが印象に残ってますが)
個人的にはギエムはもちろん(個性の強い女王様だから演目選びますけど)、ルシア・ラカッラとの並びが好きです。やはり美しいものには美しいものを対峙させて然るべき。




Lucia Lacarra


いっぱいマッシモの記事を読みましたが、今更ながらすごいキャリア…そして名だたる名バレリーナを相手に幾多の舞台を踏んできたマッシモ。
2011,2012のスケジュールは余りに静かで心配になります。

これも推測でしかありませんが、先述のエリザベッタ・テラブスト(1994年にマッシモをプリンシパルダンサーに抜擢した)が一時期2回目のスカラ座芸術監督に返り咲いた(2007)ものの、再び監督交代になったのが大きいのではないかと…
彼女がスカラに戻った時、マッシモはさぞ嬉しかったことでしょう。「素晴らし過ぎて夢のようだ、信じられない」「彼女は僕にとって初恋の人みたいなもの」と言ってましたから、オイオイそこまでかい?と心の中でツッコミ入れたくらいです。(^_^;)

また別のインタビューでも、「エリザベッタとは素晴らしく気があって相性も抜群」「自分を最初に信じてくれた人」と述べていますし、第二の大切な出会い、プティと巡り会えたのもテラブストのお陰(遅かれ早かれ他の機会が訪れた可能性もありますが)ですから、確かに彼女は特別な存在なのでしょう。



Cheri, Carla Fracci and Roland Petit



こんな事言い始めたらキリがないけど、やはりマッシモ、プティ、フラッチの生まれたタイミングや、テラブストがスカラの監督に着任していた時期、これらがまた絶妙な重なりをもってマッシモに(そして皆に)好機と幸運をもたらしていたと思います。


―1990年、フラッチは60歳の誕生日とスカラ座との蜜月50周年を迎え、スカラ座からの贈り物としてプティがフラッチのために振り付けたのが「シェリ」なのです。もちろん、当時の監督はテラブスト。彼女の勧めでプティのオーディションを受けたマッシモは見事、フラッチの若い"ジゴロ"、シェリ役を射止めます。
ここでプティはマッシモを見込み、のちにマッシモのために最多の作品を作ってくれます。

 
・・・それももう、20年以上前のこと。
2011年7月にプティは他界、マッシモにとってもっとも大きな意味をなす振付家はもうこの世にいない。そしてテラブスト監督という後ろ盾もなく、ましてやイタリアもヨーロッパも経済危機で劇場初め芸術分野の予算は削減。マッシモ御歳、40。
向かい風の嵐ですが、ファンとしてはエールを送り続けるより他ありません。

 予告編のようになりますが、今翻訳中の記事がいくつかあります。
時系列で追っているわけではないので、訳した主な記事・比較的最近の記事の中から重要と思われるトピックを引っ張ってきますので、芋づる方式に時間を行ったり来たりもあります。


これから訳したいと思っている記事は、表現者としての彼を開眼させた、そしてローランと・フラッチとの最初の記念すべき作品「シェリ」。
そして物議をかもした、しかし彼自身は芸術的に非常に高く評価している、マッル・エック版「ジゼル」。
これらに対するマッシモ自身そして周囲のコメントは非常に興味深く、また、必ずしも彼のキャリアはラッキーな出会いと若さと魅力に満ちたバラ色の人生だったわけではないと、改めて知らされます。
正直なところ、訳していて切なく、時には悲しくなったりもしました。
でも、それがかれにとってその時の真実であるならばそれを直視したいと思いますし、それらの全てを含めて、ダンサーとしての彼をやはり好ましいと感じています。


ちょっとフライングになりますが、私が最も心打たれたマッシモの言葉をひとつ、ご紹介します。
「ひとつだけ僕が個人的に追いかけている夢は仕事のことではありません。良い人間になることです。ダンスは間違いなくその助けになっています。まずは内面にある鏡です。人生では自分を隠すことを覚えますが、望もうと望むまいと、踊れば本当の自分が出てきます。それと自分が好きになれない性格(側面)を直す助けになります。
僕は昔から閉ざされた、内気な、ほとんど心ここにあらずといったまなざしの男の子でした。でも演目の登場人物になろうとする時、役柄に入り込もうとする時、自分を投げ捨てるのは簡単になります。なぜなら外に出て来るのは僕じゃなくてデグリュやロミオ、シェリだから、何も恥じることはないのですから!」。


すでに、(私の知るほんのわずかの片鱗からも伺えるほど)奢らず、真面目で、優しいマッシモですが、同時にこういった心がけを常に忘れない人なんだと知りました。
この言葉には、彼という人柄がよく現れていると思います。
すべてのダンサーが、こんな風に考えているわけではないでしょう。稀に見る純真さというか、正直で、自分を飾らず弱いところも認めることができる勇気のある人。
外見やバレエにおいての表現だけでなく、内面も美しいダンサーと出会えたことに感謝しています。


ありがとう、マッシモ。
これからも、応援しています。
Grazie Massimo per tutti, ti mando mio sincero sostegno, per sempre.

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